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第19話

しばらくして、霧島弥生は心の中でため息をついた。

知らない方がいい。そうすれば二人とも気まずくならない。

まるで全てがただの取引のように、各々が求めているものを取るだけでいい。

そう考えながら、霧島弥生は近くにいる宮崎瑛介を押しのけて、淡々と言った。「とにかく、あなたじゃない」

それを聞いて、宮崎瑛介は眉をひそめた。

「私じゃないってなんだ?私より君をわかっている人がいるのか?誰だ?」

宮崎瑛介は、自分の感情が彼女の言葉で高ぶっていることに気づかなかった。

霧島弥生は黙った。

無視されるのを見て、宮崎瑛介は手を伸ばして彼女の肩をつかみ、少し激しめに尋ねた。「男性か?女性か?」

そのつかむ力は強かった。

霧島弥生は眉をひそめて彼を押しのけた。「痛い、触らないで」

宮崎瑛介は彼女の様子を見て、手の力を弱らげたが、それでも追及を諦めなかった。

「わかった。じゃ、話をはっきりさせろ。君のことをわかっている人は誰だ?そして、報告書はどういうことだ?」

霧島弥生は付き纏われて、言わざるを得なかった。「誰も私のことをわかっていない。自分が自分のことをわかっている。さっきの言葉もただの気まぐれよ。これでいい?報告書については、どこの報告書?会社か、それともどこか別のところの?はっきり説明してくれないと、答えられないでしょう?」

彼女が自ら疑問を投げかけたことで、宮崎瑛介は目を細めた。

これは、ますます怪しくなった。

「使用人は、ゴミを片付けた時に報告書を一枚見つけた」

一枚?

報告書が一枚?

霧島弥生は彼の目を見据えて静かに言った。「どんな報告書?どこにあるの?」

「破り潰されて、もう捨てられていた。私たちの部屋で見つけた。君のものじゃないのか?」

霧島弥生は言った。「破り潰された?ああ、確かに私のものね」

そう言って、宮崎瑛介の視線を避け、再びコンピュータの画面に戻った。「病院から渡された報告書よ。何か問題があるの?」

宮崎瑛介の視線は厳しく彼女を見据えていた。「病院からって、いったいどんな報告書なんだ?」

霧島弥生は表情を変えずに言った。「健康診断の報告書よ。どうしたの?」

この答えに、宮崎瑛介は低く笑った。

「私のことをばかにしているのか?健康診断報告書なら破り潰して捨てる必要があるか?」

この質問は鋭い。

そう言って、宮崎瑛介は霧島弥生の細い腕をつかんだ。「私に何か隠しているのではないか?その報告書、一体何なんだ?」

彼女の様子がおかしいのには、きっとこの報告書に関係があるはずだ。

彼の手の力がまた強くなり、霧島弥生は眉をひそめて、軽く説明した。「破って捨てたわけではないわ。その報告書は雨に濡れて、文字が読みにくくなってしまったから捨てたの」

「じゃどうして破らなくてはならなかった?」宮崎瑛介は依然として付き纏って、今日彼女が納得できる理由を言わなければ、ずっと絡み続けるつもりのようだ。

霧島弥生は彼と視線を合わせた。

彼の瞳はとても黒く、重い。

彼女はため息をついて、再び説明した。「私が破って捨てたわけじゃない。他の可能性は考えたことある?」

宮崎瑛介はぼんやりと、「何?」

「その日は大雨で、ポケットから取り出した報告書は既にぼろぼろになっていて、服にくっついていた。だから、少しずつ取り出すしかなかったのよ」

それを聞いて、宮崎瑛介は呆れた。

頭の中で彼女が言ったシーンを想像した。

確かにあり得る。

あんなに強い雨なら、彼女の体も濡れていただろう。そして紙もきっと壊れてしまっていた。ゴミ箱に捨てて、使用人が片付ける時、紙が乾いて、破れた紙の状態で現れたのかもしれない。

どうやら、彼女が言っていることは間違っていないようだ。

霧島弥生は宮崎瑛介の手の力が少しずつ緩んでいくのを感じ、自分の言い分が彼に受け入れられたと知った。

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